Home>バックナンバー>2015冬号TOP>症例から学ぶ

 当院では、「1,000歩マップ」などのパンフレット(図2)を用意し、診療の帰りに少し遠回りして1,000歩を体験していただいている。歩数を1,000歩増やすとウエスト・ヒップ比と体重が減少し、1万歩/日に増やすと、体重は平均2kg減少する1)といわれている。
 また健康運動指導士と理学療法士が、外来の待ち時間を利用して、無料の運動相談(20~30分/回)を行っており、その相談を通じて見える、患者の運動に対する実態について紹介する。

 

 2013年8月~2014年4月に行った糖尿病患者の運動相談は318名で、医師は運動習慣確立や減量を目的として運動相談を患者に勧めることが多いが、実際に患者が相談した内容は運動習慣確立・運動量調整が一番多く(56.9%)、ひざや腰の疼痛管理や予防(26.9%)、ストレッチ(3.7%)、肩こり(3.4%)であり、血糖コントロール(3.0%)、減量(2.4%)は少なかった(図3)。
 運動ができない理由に、肥満や加齢に伴う膝や腰の疼痛が運動の阻害要因となっていることも多い。われわれの運動指導でも、まずは疼痛管理の指導を行った患者は全体の15%程であり、そのうちの4分の1はBMI30以上の中等度肥満者であった。運動への意欲はあっても痛くて十分な強度の運動ができない場合には、座位でもできる簡単なストレッチや筋トレ(椅子座位なら大腿挙げ運動や膝の曲げ伸ばし運動、立位ならハーフスクワットなど)をテレビのCM時間や歯磨き時間などを利用するよう勧めている。
 限られた診療時間の中で効率的に運動指導を行うために、現在よりも「+10分もしくは+1,000歩」の運動を指導してみると良い。日常の買い物で、行きは少し遠回りをしたり(帰りは荷物も重くなるので通常通りの道で)、スーパーでは2~3周店内全体を歩いてから買い物を始める。仕事をしている患者には、帰り道に少し遠回りしてみるなど、1,000歩(約10分)となる歩行をできるだけ具体的に示すと実行につながるようである。「一駅手前で降りて歩きましょう」というアドバイスをすることもあるが、“一駅”は、通常20~30分、2,000~4,000歩の運動であり、運動習慣がまったくない人が始める運動としてはなかなか実施が難しい印象である。