Home>バックナンバー>2015冬号TOP>施設紹介レポート

Q:実地医家の先生は低血糖に対してどのように対応していくべきでしょうか。

大橋:「低血糖の症状にはどのようなものがありますか」と聞かれることが多いのですが、一般的な症状以外に、「症状が無いことも低血糖症状です」と答えるようにしています。いわゆる隠れ低血糖です。常に低血糖があると思い、医師から積極的にアプローチすべきです。患者さんから「低血糖を起こしました」なんて言ってくることはほとんどありません。
 HbA1cが高く血糖コントロールが不良な方には、SU剤やインスリンなどの薬物療法を行うことが多いのですが、その際には血糖が高くても低血糖は起こり、不整脈などを来たし突然死の原因になることが多いことがわかっています。また血糖降下速度が急激な場合、100~200mg/dLの非低血糖域でも低血糖症状が出ます。その際には、グルカゴンやカテコールアミン、コルチゾールなどが分泌され、低血糖後の高血糖を来たすことが多いです(Somogyi Phenomenon)。朝食前血糖値のばらつきの大きい人は夜間の低血糖を疑います。夜間の低血糖は、無自覚なことが多く、特に飲酒した際にはほとんど気付かないといわれています。α-グルコシダーゼ阻害薬やDPP-4阻害薬などの単独投与では、低血糖は少ないのですが、SU剤やインスリンなどと併用の場合には、無自覚低血糖が起きていると想定して治療に臨むことが必要です。

Q:血糖管理するうえでの注意点はありますか。

大橋:できるだけHbA1cは正常に近い方がよいのですが、それのみにとらわれ治療強化すると、かえって血糖コントロールが悪化することがあります。例えばインスリン治療開始後、体重もさほど増加せずHbA1cが順調に改善、より一層の改善を求め治療強化すると、突然体重が増加、HbA1cが悪化に転じ、インスリンの増量が必要となることがあります(図4)。
この場合は、たとえ患者さんが低血糖を訴えなくとも隠れ低血糖による補食→血糖コントロール悪化→インスリン増量→隠れ低血糖→補食という悪循環に陥っている可能性が大きい。血糖コントロール悪化にもかかわらず、思いきってインスリン減量など治療の退却を行うと、血糖が改善することを経験します。まさに過ぎたるは及ばざるがごとしです。

Q:最後に実地医家へのメッセージをお願いします。

大橋:糖尿病を決して怖がらず、侮らずに一般の先生方にも診ていただきたい。私どもはご相談をお受けする立場ですが、何か治療に疑問や問題があれば電話でよいので相談していただきたいですね。そのためにも普段から地域での医療ネットワークが必要です。一般的に糖尿病専門医はオープンマインドです。自分で診ながら糖尿病治療のノウハウを習熟してくほうがいいと思います。
 最近は、金銭的な理由から治療中断する方も多いようです。携帯電話に1万円払う、飲み会には行くけれど糖尿病治療にはお金を使わない。糖尿病治療による健康寿命の価値を理解していただき、実地医家の先生と一緒に糖尿病治療のレベルを上げていきたいですね。