Home>バックナンバー>2015秋号TOP>施設紹介レポート

 中断理由として、最も多かったのは、「仕事が忙しく、時間がない」だった。特に壮年期は、ライフステージにおいても仕事の占める割合が高く、自分の疾患に関して優先度が低い傾向がある。また、多忙や外来での待ち時間の長さも、通院中断の原因になる4)
 「次回受診日は、基本的に患者さんに委ねています。直前まで予定が立たず、予約が取れない方も多い。そういう方には、『薬の残りに余裕がある状態で、再診に来てくださいね』と、可能な限りご希望される分の薬を処方しています」(横山先生)。患者一人ひとりの生活スタイルに合わせた、柔軟な対応が通院継続につながる。
 また、管理栄養士の畑中麻梨恵先生は、地方ならではの問題を指摘する。
 「帯広には、公共の交通機関がほとんどありません。バスは走っていますが、最寄りのバス停からクリニックまでは、相当歩かなければならない。ご高齢の方や、運転免許を持っていない方は、家族の送り迎えが必要な場合が多いです」。
 高齢者には、家族に迷惑をかけたくないという遠慮がある。些細なきっかけから、通院中断につながらないよう、家族にもしっかりと治療継続の必要性を伝えておきたい。
 横山クリニックで、50歳以上の患者約1400人を対象に行った認知症の簡易検査では、全体の約6%、65歳以上では約8%に認知症の疑いがあった。糖尿病がない人と比較し、糖尿病患者では、アルツハイマー型認知症が約2倍、血管性認知症で約3倍、うつ病は約2倍多いといわれている。高齢者の「認知症」は、「うつ」との区別が困難なことや、合併するケースもある。
 「ご高齢の患者さんの場合、一人で来院できたとしても、医師の言葉をよく理解できなかったり、忘れてしまったりする。認知症や記憶力の衰えはゆっくりと進むので、ご家族は、意外と患者さんの状態を把握していないこともあります」(畑中先生)。継続した通院で、認知症やうつを早期発見すると家族の負担軽減になるのではないか。
 また高齢者に限らず、医療費の経済的負担が大きい患者には、安価な薬に調整したり、検査の回数を少なくするなどの配慮を行っている。

 通院継続群に比べ、中断群では、神経障害、網膜症、腎症の発症率が高い4)。通院の継続は、そのような合併症の予防のほか、癌や脳梗塞、心筋梗塞、認知症など、他の疾患の早期発見にもなる。
 横山クリニックに通院していた患者約200人の死亡原因を調べたところ、『悪性腫瘍』(37%)と『脳梗塞・心筋梗塞・狭心症』(10%)で約半数を占めていた。「これらの疾患は、患者さん自身では初期症状に気づきにくい。かかりつけ医が検査を行うなどして、早期発見に努めたい」(横山先生)。横山クリニックでは、各種血液検査、レントゲン、心電図、腹部や頸動脈IMTの超音波検査、尿検査、さらに24時間蓄尿検査などを定期的に実施。「糖尿病治療の継続が、結果として、ほかの疾患の早期発見や健康寿命を延ばすことにつながる」(横山先生)。