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糖尿病聴診記

“びっくり高血糖”
 “びっくり低血糖”

井上 利男 いのうえ としお

井上内科小児科医院 院長 (山梨県)
日本臨床内科医会 山梨県会長
山梨大学医学部法医学非常勤講師

 先日、日常の外来診療を行っている中で、血糖値に関して非常に珍しい症例を経験したので報告します。

“びっくり高血糖”

 疲労感を訴え、来院した75歳の男性。思いあたるところがないか聞いたところ、前日に歯科で抜歯をしたと言います。尿検査で尿糖(4+)ケトン体(3+)、血糖値が1250mg/dLという驚くほど高い数値を示し、ケトアシドーシスと診断。直ちに専門病院へ入院させました。インスリン注射と大量の補液にて一晩で500mg/dLまで改善しました。家族を含め、糖尿病歴がないことから、抜歯時のストレスで小胞体指令のインスリン分泌がOFFの状態となったと考えられます。

“びっくり低血糖”

 次に、入浴中に亡くなった63歳の男性。朝食後、いつもの経口糖尿病薬を服用。昼食を摂り、夕方、入浴中に意識がなくなり、死亡したため、検案依頼があり対応しました。
 熱い湯に入ると、血糖値は通常よりも早い低下を来し、HbA1cが 7.5%あるものの、血糖値は0値でした。死後画像診断Ai(Autopsy imaging)では異常を認められず、低血糖により意識障害を起こし、死亡したと考えられます。
 高齢化社会を迎え、糖尿病患者さんが増加する中で、われわれも血糖値の異常変化を常に念頭に置くことが大事です。