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②その後の経過

・デグルデクを減量した翌日(6日)以降、夜間低血糖は消失。就寝前から翌朝にかけての血糖変動も、おおむね±30㎎/dL以内に収まるようになった。

・HbA1cは順調に低下し、4カ月後には6.6%まで下がった。そこで再度CGMを実施した

・妊娠出産希望のため、今後は基礎インスリンをインスリン デテミル1日2回法、もしくはインスリンポンプ療法への切り替えを勧めている。より厳格なコントロール(HbA1c 6.2%未満)を目指し、日々カーボカウントの精度を上げるべく試行錯誤している。

 基礎インスリンが適正化されて、患者が最も喜んでいたのは、HbA1cの改善ではなく「不可解な低血糖がなくなり、自分で血糖を調節しているという手ごたえが感じられるようになった」ことであった。基礎インスリンが過剰だと、1日を通じて血糖値を下げ続けようとするため、それに抗すべく食事を摂り過ぎたり、追加インスリンを十分に打てなかったりして、食後血糖が抑えられなくなる。体重の増加や、食事時間の遅れによる低血糖など、患者のQOLは著しく損なわれる。
 黒田らの報告によると、日本人1型糖尿病における基礎インスリンの至適用量は、1日のインスリン総量の30%未満であるとされる1)。この点からも、来院当初の基礎インスリンは明らかに過剰であった。西村らは国内にCGMが普及した早期から、持効型インスリンの過量投与による夜間低血糖や日中の高血糖を問題視し、CGMグラフを象の横顔になぞらえ、「象の鼻を伸ばそう」と訴えてきた2)。しかし依然として、基礎インスリンが過剰な症例が散見され、基礎インスリン量が1日総量の50%以上になる例も見られる。

基礎インスリンは血糖値を下げるためではなく、横ばいに維持させるためのもの。

追加インスリンは、食事による血糖上昇を抑える、あるいは高血糖を補正するためのもの。

という使い分けを肝に銘じ、徹底することが大切である。

文献

1)A. Kuroda, et al.: Diabetes Care 2011; 34(5):1089-1090

2)西村理名 :CGM 持続血糖モニターが切り開く世界. 改訂版,
医薬ジャーナル社, 2011