Home>バックナンバー>2016夏号TOP>>施設紹介レポート

 患者を透析に進ませないために、どの程度を目安に腎臓専門医と連携していけばよいのだろうか。「一般的な糖尿病患者さんであれば、eGFR(推算糸球体濾過量)45(mL/分/1.73m2)を目安にしてほしい」と原口先生は言う。

 「eGFR45で中程度の腎機能低下の値ですから、貧血など腎障害に伴う代謝異常が現れてきます。そのくらいの数値になったら、一度腎臓専門医に診せて、連携をしていただきたいと思います。しかし、例外もあります。例えば、85歳の患者さんであれば、透析になる確率より他の病気で亡くなる可能性の方が高い。高齢で、透析のリスクが低い患者さんなら、必ずしも専門医を受診する必要はないかもしれません」

 連携にあたっては、患者個々に合わせた、柔軟な対応が必要だ。「もし透析になるとしても、ある程度の時間がないと、患者さんとの人間関係が作れません。腎機能の悪化は、体調や心身の状態に大きな影響を与えます。そのため、薬剤の選択や、食事療法も変わってくる。腎臓専門医に行った途端、あれこれ新しく始めるというより、少し時間をかけて、人間関係ができてからの方が、スムーズに移行できると思います。その辺りの時間も考慮すると、eGFR45くらいで一度腎臓専門医へ診せていただきたいと思います」

 早期の連携によって、腎臓専門医の診療方針を組み込み、透析へと進ませないための予防が可能となる。

 糖尿病診療では、「人間関係の構築が第一」というのが、原口先生の持論だ。患者の信頼を得るために、先生は患者との雑談を大事にしている。

 「『運動して下さい』『糖尿病とは…』と病気の知識や情報を一方的に伝えても、患者さんの気持ちにはなかなか入っていきません。雑談の中で、ゴルフが趣味だとわかれば、『ゴルフでは歩いていますか?』『最近はカートに乗ってばかりで…』『少しでいいので、歩いてみませんか』と具体的なアドバイスができる。次の診察で、数値が改善していたら、『HbA1cが良くなったね。ゴルフのスコアも良くなった? 歩いて体幹が鍛えられたら、もっと飛ぶようになりますよ』と声をかけます。ほめられると、患者さんとしてもうれしいだろうし、徐々にご自分で考えてさまざまな工夫をされるようになります」

 「来週は深夜に『マスターズゴルフ』を観たいけど、夜更かしすると、血圧が上がって、また先生にばれちゃうな。録画して見よう」「週末に孫が来るけど、食べ過ぎないように気を付けよう」など、患者一人一人が自発的に療養へ取り組むようになっていく。