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糖尿病聴診記

悩める
糖尿病の1症例

門野 豊 かどの ゆたか

かどの内科・消化器科 院長
札幌市医師会代議員会 議長
北海道内科医会理事
大原医療福祉専門学校講師

 2型糖尿病の治療の目的は、合併症の併発予防であり、具体的な目標値(HbA1c 7.0%未満)が設けられている。さらに糖尿病の薬物治療はその作用機序の違いから、インスリン以外、最新のSGLT2阻害薬を含めて7種類に分類され、患者の病状、病態、生活パターン、服薬などの状況を考慮して指導していくのが一般的と考える。つまり治療原則に従い生活の改善をお願いする流れとなる。しかし時にそうではない事態に遭遇する事がある。
 症例を提示する。
 患者は69歳、男性、糖尿病歴は今年で17年目となる。当初はSU剤、ビグアナイド剤の投薬で順調に経過した。合併症はない。
 しかし2006年頃から増悪と寛解を繰り返す様になり、2010年頃からHbA1c値が8.0%―9.0%と高値が続く様になった。2011年HbA1c値が10%を認めた時点でインスリン療法を開始した。この時も合併症は認めず、経過は順調であった。インスリンに加え、DPP-4阻害剤を併用し、2013年5月にはHbA1c値5.7%となるまでに改善した。
 ところがここからが問題である。退職に伴い、患者の生活環境が大きく変貌した。山中の温泉宿のボイラー管理を任され、週5日間は住み込みの生活となった。午前9時から午後6時頃まで、きつい仕事のようで、昼食は山中にある一軒のレストランだけ、メニューに和食はなく、ジンギスカンと牛丼とトンカツ料理など肉料理ばかり、空腹の中、昼食はどうしても完食してしまうとのこと。周囲にコンビニもなく朝、夕の食事も不規則になったと話す。さらに時間の関係から、外来通院も2か月に一度となってしまった。
 当然、血糖変動幅も大きく、順調だったデータも増悪傾向を認めるようになった。幸い、体重の増減はいまのところ認めない。生活環境の改善を相談するも、「妻も糖尿病で治療中、治療の原則はよく解る。ただ生活があるし…」との返事が返ってきた。患者の生活改善は困難の中、今後の治療をいかに展開すべきか、乏しい知恵をしぼりながら思案中である。