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糖尿病聴診記

1型糖尿病の
2人の女性

野見山 理久 のみやま りく

医療法人 鈴木内科医院 院長(福岡県)

 今から25年くらい前に、幼くして発症した1型糖尿病の20代の女性が2人いました。1人は入院患者さんで、子どもの頃は母親がインスリンを注射していたそうです。ところがなかなかコントロールできないため、母親は新興宗教を頼るようになり、教祖から「インスリンなど打つからよくならない。すぐにやめて信仰すれば必ず治る」と言われ、治療をやめてしまいました。彼女は子どもながらにインスリンをやめると体がだるくなり、打つと楽になると感じたので注射してくれるよう泣いて頼んだのに母親は打ってくれなかったそうです。糖尿病はますます悪化して、母親は宗派を転々とし、ついには「自分はこんなに一生懸命なのに、良くならないのはお前が悪い」と娘を責めるようになったそうです。結局、彼女は糖尿病の合併症が進んで失明し透析になり、それは母親のせいだと怨んでいました。母親が面会に来るたびにひどい言葉を投げつけるけれど、それでも母親は娘の世話をしようと毎日のように来ていたそうです。
 もう1人は看護師さんで、「2歳で発症し、物心がついて以来インスリンを打っているので苦痛に思ったことはない」と言います。「食事の前に手を洗ってインスリンを打ち、食事が済んだら歯をみがくように躾けられたので、皆もそうしていると思っていた」そうです。彼女は結婚し子どももいて幸せそうでした。
 同じような2人なのに、なんという異なった人生でしょう。こんな悲劇は絶対に防がなければと、私に糖尿病専門医になる決意をさせてくれた方々でした。