Home>バックナンバー>2015夏号TOP>Voice of Registered Dietitian

 医師が患者さんに「栄養指導受けてみませんか」と勧めると、患者さんは「以前別の病院で栄養指導を受けて、糖尿病や食品交換表のことは分かっている」という反応。しかし、患者さんの血糖コントロールは良いとは言い難い状態で、「分かっている」という言葉の裏には実行しているとは限らない状態が隠れている。  そこで医師が「優しく教えてくれるから、栄養指導を受けてみて」とアドバイス。ここから栄養指導・玉木マジックの始まり。玉木マジックは特別な魔法を使うわけでなく、まず患者さんの生活背景を傾聴し、行動変容と心のケアもプラス。“You must” < “Iwill” の世界へ誘う。

玉木 悦子 たまき えつこ

管理栄養士
日本糖尿病療養指導士
神戸学院大学 栄養学部 客員教授

玉木マジック その①

食事の数字にも強い公認会計士

 食事療法はしっかり守っているのに、血糖値改善につながらない公認会計士の患者さんが紹介された。
 確かに、食品交換表に基づきご飯の量など、細かなことまで分かっている。昼食は奥様の手作り弁当で、患者さんも量的確認をしながら食べている様子が伺えた。そこで、「確かに量的、バランス的なことはしっかり把握されていますが、食事をゆっくり楽しむことも大切!公園で桜の花を愛でながら食べてみませんか」と提案。「お花見弁当で綺麗だな、おいしそうだなという気分になると胃液の分泌も違います。そして一口目は野菜からゆっくり味わいながら食べてみてください」とお花見の頃にアドバイス。
 その後5月に「血糖値が改善しました。箸始めは野菜からゆっくり良く噛むことや、心のあり方も大切だと気づきました」との丁重なお葉書を頂戴した。私の心にも満開の花が咲いた。

玉木マジック その②

韓流ドラマが大好きなAさん

 「Aさん、このところHbA1cが上昇気味で栄養指導で原因を探ってみて」と医師からの依頼。Aさんに食事内容を聞くも、さほど変化はない。しかし生活リズムを尋ねてみたところ、朝食が10時前後になっている。怪しい…???
 詳しく聞くと、真夜中にビデオ鑑賞をしていることが判明。聞けば「韓流ドラマ面白いのよ。やめられないわ。深夜なら電話や用事で誰にも邪魔されないし」と青春を取り戻しているかの様子。「Aさん、ビデオを楽しむことはいいけれど、真夜中に見ると、睡眠時間は確保されても眠るべき時間帯や朝食時間がずれて、血糖管理からすれば問題ですよ」とホルモンバランスと血糖コントロールの関係を優しく伝え、食事バランスだけではなく、生活リズムを整えることをアドバイス。Aさんは徐々にHbA1cの改善がみられた。栄養指導を通じて独居生活の寂しさと自由を垣間見た。
 栄養指導は長いお付き合いから話しやすい雰囲気が生まれ、傾聴することで浮上してくる問題点をアドバイスしてゆくことが大切と思う。