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ナースの目

熱心な指導

飯田 直子 いいだ なおこ

三咲内科クリニック 看護師長
(千葉県)
日本糖尿病療養指導士
(糖尿病療養指導歴19年)

 糖尿病は、生涯通院の必要があるが無症状なことが多く、通院の継続には患者・医療者双方の努力が必要である。私は糖尿病外来に携わり20年近くになるが、通院中断の結果、重い合併症を発症して再来する患者さんを見て、医療者として無力感を抱くことがある。
 日常の外来で患者さんの通院継続のための配慮として、

①高品質の医療を提供し治療効果を出す
②待ち時間はできるだけ短く
③採血の苦痛は最小限に
④患者さんに合った療養指導を提供する
⑤心理的なサポートや家族支援を行う

 などがある。また、医療機関独特の緊張感を最小限にするため、患者さんに安心感を持ってもらえるよう看護師は、笑顔を絶やさず、また受診が楽しいと感じsられるような明るい雰囲気を心がけている。
 特にさじ加減が難しいと思うのは、患者さんに結果を出させたいと思うあまりに医療者が“熱心な指導”をした場合、「結果が出ていないかもしれないから採血したくない」「結果が良くなっていないと叱られる」「受診が憂鬱である」と、患者さんに感じさせてしまうことである。この“熱心な指導”こそ、“くせ者”だと思っている。
 大学病院から転院してきたAさんは、インスリン治療をしていたが根本的な問題である肥満が改善できず、血糖コントロールにも難渋していた。Aさんは「結果が出ないと受診のたびに主治医に責められ、受診そのものが苦痛で生きているのが辛かった」と話す。当院への転院を決めたとき、「ここでだめならもう糖尿病の治療を諦めよう」とさえ思っていたそうだ。当院に通院し始めてから8年、「今はもう少し生きていこうと思えている」とのこと。Aさんの生きる意欲を奪ったのは、もしかしたら“熱心な指導”をしていた医療者かもしれない。健康に生きることを支援する医療者が、患者さんの生きる意欲を奪うかもしれないことを心に留めておく必要があるとつねづね思っている。