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糖尿病聴診記

「医者の言う通りやってたら、
かえってコントロール悪くなるよ」

木村 那智 きむら なち

ソレイユ 千種クリニック・院長
(愛知県)

 十数年前、1型糖尿病を患う友人の言葉に、初期研修を終えたばかりの私は愕然としました。追い打ちをかけるように、他の1型糖尿病の仲間達も「そりゃ当然だよ」と口々に。完全アウェー。そんな理解に苦しむ出来事が、1型糖尿病診療をライフワークとするきっかけになりました。
 当時日本では、1型と2型の糖尿病治療の区別はなく、1型も食品交換表に基づく食事療法が当たり前、インスリン量は固定で、コントロール悪化時は繰り返し栄養指導が行われていました。しかし実は、糖尿病学に燦然と輝くDCCT(Diabetes Control and Complications Trial)というスタディが既に発表され、米国では食事を自由に摂ったうえで、糖質摂取量に応じてインスリンを調整することが広く行われていたのです。そして国内では、患者さんたちが自らの経験から、カーボカウントに相当する治療法を口づてで教えあっていました。
 その後、国内の1型糖尿病臨床のパイオニア的な先生方がカーボカウントの普及に努められ、今日ではすっかり「1型=カーボカウント」「治療に生活を合わせるのでなく、生活に治療を合わせる」が当たり前になりました。
 私にリアルワールドの血糖コントロールを教えてくれた当時の仲間たちは、今では揃って私のクリニックに通ってくれています。「土曜午後は1型サロン」という夢もかない、みんないい年になって、赤ちゃんを連れ夫婦で受診する人も。そうやって仲間たちと一緒に年をとって、長いお付き合いができるのも、1型糖尿病に携わる醍醐味です。