Home>バックナンバー>2015夏号TOP>症例から学ぶ

 は、治験に入った患者さんの症例です。治験のプロトコールに従い、深夜の血糖自己測定も含め1日7~8回血糖を測定して、低血糖がないことを確認しながら慎重にインスリンを増量し、HbA1cは8.4%から6.4%まで低下、体重も減少傾向でした。しかし、ある時点を契機に体重増加しHbA1cは悪化に転じ、インスリンを増量してもその傾向は持続しました。
 一体何が起きたのでしょうか。原因は、たった1回の低血糖でした。血糖自己測定で低血糖がないことを確認しながら、treat to target(目標達成に向けた治療)方式でインスリンを増量中に、一度だけ食事の遅れによる低血糖症状があった以外は、自覚症状も含めてはっきりした低血糖はありませんでした。しかし、この一度の低血糖を契機に、患者さんは低血糖回避のために無自覚で食べることを覚えてしまったようです。後日聞いてみると、なんとなくお腹がすくような感じがして、過食になっていたそうです。
 インスリンを増量したにもかかわらず、HbA1cが悪化し体重が増えるというパターンです。インスリンやSU薬など強力な血糖の改善治療中に、ある時点を境に体重増、HbA1cが悪化に転じたら、治療過剰を疑いましょう。過ぎたるは及ばざるがごとしです。これもグラフ化をすると早期に気づきます。
 私は「低血糖の症状は何ですか」と聞かれたら、「症状がないのが低血糖です」と答えるようにしています。CGM(持続血糖測定) を行うと、低血糖を起こしていても患者さんが気がついていないことが、いかに多いかに驚きます。


 

電子カルテを活用することでいろいろな情報が集積され、かつ再分析が可能になります。体重とHbA1cの関係について述べましたが、例えばエリスロポエチン製剤で貧血の治療を行っていると、HbA1cとHbの変動は緊密に逆相関することがわかります。中年以降の体重増加によりGPTγ-GTPが上昇し、脂肪肝が出現。インスリン抵抗性を来し、食後の血糖上昇、さらに空腹時血糖も上昇して、ついには糖尿病を発症してしまう過程も、数年にわたるパラメーターのグラフ解析により手にとるようにわかります。患者さんとグラフを共有すると、治療への同意も得られ、数値目標も設定できるので、非常に有効な方法です。ぜひグラフのご活用をお勧めします。