Home>バックナンバー>2015夏号TOP>症例から学ぶ
 また、農業や漁業が盛んな地域では季節による労働量の大きな変動があり、地域に特異的な体重やHbA1c変動パターンを認めます。
 グラフを数年間にわたって観察すると、例年と異なった動きを見つけることができ、仮に悪化であれば、その時期に変化したライフスタイルを聴取することで、生活習慣の改善を促すことができます。また高齢者で食事療法の乱れがないにもかかわらず、急激な体重減少とHbA1cの悪化が認められた場合は、消化器系がん、特に膵臓がんなどを疑い、積極的な検査を行う契機となります。

 生活が乱れ、残業やストレスが蓄積してくると一般に過食傾向になり、運動量も減少しがちで大幅にHbA1cが上昇し、体重が著増することがあります。過去と比べて大きな変動がある場合、ストレスの対策などの心理的な側面に注意してアプローチしていく必要があります。このような際は、メディカルコーチングというコミュニケーション技術が役立つことを多く経験します。
 一方、体重増加を伴わないHbA1cの悪化は、総摂取エネルギーは変わらず、薬物療法の不遵守や、PFC(三大栄養素Protein、Fat、Carbohydrate)バランスの崩れ、食事が糖質中心に偏っている可能性が示唆されます。

  は、HbA1cと体重が線対称、すなわちHbA1cが上昇すると体重が減少、HbA1cが低下すると体重が増加する奇異的なパターンです。この症例は、強化インスリン療法を行っており、60単位/日を使用していました。血糖コントロールの改善局面では、指示通りインスリン注射を行い、食事療法が守れないため体重が急激に10kg増加しています。HbA1cが6%以上悪化した局面では、インスリン注射量の著明な不足が想定され、血糖コントロール不良による10kgの体重減少がみられます。
 このような患者の多くは治療への遵守が悪く、医師とのコミュニケーション不足から自分の症状や不満、治療への意見を伝えられないことが認められます。その背景には治療や社会環境に対するストレスや治療改善の際に起こった低血糖に対する恐怖による血糖上昇などが考えられます。いずれにしても10kgの体重やHbA1c6%の増減は、治療が円滑にいっていないことの反映で、入院加療なども含めた、従来とは異なったストラテジーが必要だと考えます。