Home>バックナンバー>2016冬号TOP>症例から学ぶ

 薬物療法をしても、服薬アドヒアランスの低下による残薬の増加、またSU薬の特性として低血糖遷延の問題がある。
 さらに、適切な食事の提供・管理をする家族が不在時には、間食・過食をしてしまい、実際、肥満傾向で血糖コントロールは不良()。
 一方で体調不良時に欠食し、低血糖による救急受診もあり、これらの課題に取り組む必要があった。
 短時間型のデイサービス利用を勧め、体験もしたが、長続きすることなく中断してしまった。

 今後の食事療法やデイサービスでの運動療法について指導するため、外来受診の際、娘さんに同行してもらった。そこで、「フロリダ在住の孫娘が出産するので曾孫に会いに行きたい」と希望され、海外旅行が可能であるかを相談された。
 内服薬の増量や、多剤併用による低血糖のリスクを回避し、キードラッグである血糖コントロール薬を確実に投与するため、注射製剤のGLP-1受容体作動薬(持続性エキセナチド)の導入を検討した。持続性エキセナチドは週に1度の投与で、薬剤特性として、単独では低血糖を生じる危険性がほぼない。また、訪問看護師や家族が自己注射を見守ることで、確実な薬剤投与が可能となる。

 患者には変形性膝関節症による歩行障害もあり、運動療法の障害となっていたため、家族への注射手技指導と薬剤の副作用出現チェック、およびリハビリテーションを目的に2週間の入院治療を行った。
 持続性エキセナチドの週1回投与という特性により、時差の問題も克服し、旅行中1回のみの注射で10日間のフロリダ旅行を満喫した()。
 帰国後の初回受診日、最高の笑顔で、患者は嬉しそうに写真を見せてくれた。その後も、「国内の温泉旅行に行きたい」「またクルージングしたい」と次の目標設定を自発的に立てるなど、持続性エキセナチド導入が患者の自信と治療意欲につながった。あれほど興味のなかったリハビリやデイサービスへの参加も笑顔で積極的に取り組んでいる。