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極める! くすりと療養指導

シリーズ 1(2回連載)

―東日本大震災から5年―

金田 早苗 かねた さなえ

薬剤師
有限会社みやぎ保健企画
代表取締役(宮城県)

3・11を例に、非常時における医療現場の状況と、
患者への望ましい対応について解説する
 
 

東日本大震災時の状況

 東日本大震災では、多くの医療機関、保険薬局が多大な被害を受けた。当薬局は津波の被害を免れ、近くの災害拠点病院と連携して営業を続けたが、患者の中には、命からがらに避難し、薬も津波で流されたという方が多かった。これまでの災害との大きな違いは、慢性疾患の薬が必要とされたことだ。
 交通機関のマヒでかかりつけの医療機関を受診できない患者が、薬を求めて、朝早くから薬局の前に並んでいた。災害時は処方箋がなくても、お薬手帳か薬剤情報提供書を元に薬局で調剤をすることが認められている。処方内容の確認には、お薬手帳が大いに活躍した。
 被災後は停電のため電子カルテや薬歴はもちろんのこと、調剤機器も使えず、通信インフラの遮断で医師に疑義照会もできなかった。そのような状況で薬剤師の判断で調剤することは、慢性疾患の薬であっても、大変な業務だった。普段受け付けたことのない医療機関の処方は、医薬品の在庫がなく、銘柄を変更して対応した。災害時には、お薬手帳が医師の負担を軽減し、医療機関を受診できない患者の薬物療法継続に役立つと考えられる。
 在宅患者には、地域の訪問看護ステーションなどと協力して、薬の供給を行った。医療と介護のスムーズな連携のためにも、日頃から両者の顔が見える関係作りが重要であると痛感した。
 震災後は、多数の患者で膨大な作業に追われたが、全国の薬剤師からの支援を受け、調剤活動を行うことができた。