Home>バックナンバー>2016冬号TOP>施設紹介レポート

 「うちに来る紹介患者さん、特にノンインスリン患者さんには、SU薬の高用量処方や多剤併用など目いっぱいまで薬を増やされた状態でやってくる方もいます」
そのような患者に、最も有効なのは、糖尿病診療の基本ともいえる『食事療法』だという。
 「普通、患者さんの血糖値が上がると、薬を増やしますよね。患者さんは低血糖が怖いから食べるわけです。でも、食べちゃいけないとはわかっているから、診察で医師に『食事はどうですか』と聞かれれば、『食べすぎていません』と答えざるを得ない。医師は糖尿病が悪化したと思って、また薬を足す。低血糖が起きにくいとされるDPP-4阻害薬でも、空腹感は強まります。だから、患者さんはもっと食べる。『食べたか』『食べていません』の繰り返しです」
 奥口内科では、SU薬の積極的な減量を行っている。しかし、HbA1cが大幅に悪化するケースはほとんど認められていない
 2012年には、グリメピリド3mg錠を52人に処方していたが、2015年にはゼロ。1mg錠の処方患者にも、薬剤の変更や、0.5mg錠への減量を行った。「SU薬を抜くと、HbA1cが一時的に悪化する患者さんも中にはいます。患者さんには『少しHbA1cが上がっているけど、あなたに一番良い治療を考えて、お薬を変えているので、しばらく様子を見ましょうね』と伝えます」
 特に高齢者の場合、飲み慣れた「いつものお薬」の変更や中止に戸惑いを覚える人も多い。薬剤を切り替える際には、変更のメリット、副作用やシックデイ時の対応も含め、丁寧な説明を心がけたい。
 糖尿病治療の基本は、生活習慣の是正である。しかし患者には、早く血糖値を下げて、安心したいという気持ちがある。「一昔前まで、初診時は食事療法だけで指導していました。ですが、今の患者さんは、食事指導だけでは難しい。時代の流れなのか、医師、患者さん双方に『早く結果を出したい』という焦りがあるように感じます」。特に、初めて経口薬治療を開始するケースでは、結果を求めるあまり低血糖を起こすことのないよう薬剤を選択することが肝心だ。
 奥口先生は「血糖値はゆっくり下げたほうがいいですからね。私と協力して、一緒に治療を進めてくれませんか」と、患者にお願いしていくことも必要だと説く。
 また薬を変更する際には、患者の感情をくみ取って進めていきたい。