Home>バックナンバー>2016夏号TOP>>症例から学ぶ
 これらより、貧血の精査として、上部消化管内視鏡検査と便ヘモグロビン検査を、γ-GTP上昇の精査として、腹部エコー・CT検査を施行した。

 上部消化管内視鏡では、H2ステージの胃潰瘍が認められ、ヘリコバクター・ピロリ菌検査が陽性であったので、除菌した。便ヘモグロビン検査は2検施行し、双方陽性にて、さらに下部消化管内視鏡検査を施行し、肛門から17cmの直腸壁3/4周に潰瘍性病変を認め、生検も施行し潰瘍限局型(2型)直腸癌の診断となった。また、腹部エコー・CTでは、肝左葉外側域に63×53×49mmの内部均一な腫瘤性病変が認められ、組織学的に肝細胞癌と診断された

 本症例は、外科にて手術となったが、術前の腫瘍マーカーでは、AFP3.9 ng/mL、PIVKA-Ⅱ 18 mAU/mL、CEA4.0 ng/mLといずれも基準値内であった。
 術後、全身状態、血糖コントロールともに経過良好である。

 本症例では、1年に約1㎏の体重減少を認めた。食事療法をしっかり行っている糖尿病患者では、これ以上に体重が減ることもある。しかし本症例のように、極端な食事制限もなく、食欲もあり、しっかり食べているのに体重減少を来す場合には、癌を疑うことが必要である。

 糖尿病の日常診療では、血液・尿検査を行うが、検査結果の説明のみで終わらずに、これまでの検査結果の推移を見ることが非常に重要である。本症例では、Hbが軽度の低下を来していたので、貧血の進行や、γ-GTPが前回受診時より急に上昇している点を疑い、画像検査を施行したことが、癌の発見につながった。

 本症例のように、比較的大きな腫瘍であっても、腫瘍マーカーが、基準範囲内のケースもある一方、高値であっても、必ずしも腫瘍があるとは限らない。腫瘍発見のためには、画像検査などを優先する必要があると考える。