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 「患者はHbA1cで困っているわけではない」と、原口先生は言う。それよりも「膝が痛い」「食べ物が飲み込みにくい」「薬を飲んだかどうか忘れる」という方が、患者にとってはずっと大きな問題だ。

 「運動は糖尿病療養の基本ですが、膝や腰に痛みがあって、動けない患者さんがとても多い。そういった訴えを『年のせいですね』と済まさず、その場で足の筋肉を強くする運動を教えて、『今日から始めてくださいね』とお伝えしています」
 日本整形外科学会『ロコモティブシンドローム』のパンフレット()なども参考にしたい。
 また、「口が渇いてものが飲み込みにくい」「むせることが多い」という高齢者には、食事指導の際に、誤嚥防止のトレーニングや唾液分泌マッサージなどの指導を行うとよいだろう()。

 「高齢者の認知症に関して、少し危ないかなと思った方には、『長谷川式簡易知能評価スケール』をすぐに実施しています。『当院では、75歳になったら、全員に認知症検査を実施します』というルールにすれば、変に気後れすることもありません」
 以前は、原口先生自身にも、認知症検査を行うことにためらいがあったという。医療者が躊躇しているうちに、認知症が進んでしまったり、本人が物忘れしたこと自体を忘れてしまう状態になると、検査の必要性を感じなくなり、拒否したりするようになる。

 「検査をして、『大丈夫ですね』で済めばいいし、もし疑いがあれば、ご家族と連携を取る、あるいは専門医療機関や、地域の認知症介護サービス諸機関へつなぐこともできます。患者さんから、『癌が見つかったけど、どうしよう』など専門外の相談を持ちかけられるときもあります。そういった訴えも、できる限り受け止めてあげたいと思います」

 『急がば回れ』ということわざもある。糖尿病合併症を防ぎ、透析に進ませずに、最後まで診るには、一人一人の患者にじっくりと向き合い、信頼関係を築くことが大切であろう。