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横野 その通りです。身体面や精神面ばかりでなく社会面においても大きな多様性をもつのが高齢糖尿病患者の特徴ですから、年齢や血糖値のみではなく、患者さん個人の総合的な状態を診て、治療指針や治療目標を決めていくことが重要です。高齢の糖尿病患者は増え続けています。また、超少子化の中で自己管理の難しい高齢患者さんを支えるキーパーソンは枯渇しており、老老介護や認認介護も珍しくありません。さらに、認知症やうつなどの合併で服薬アドヒアランスの低下した高齢者の血糖管理をどう進めていくかは、多くの臨床医の関心事といえるでしょう。
福田 当院にも高齢の糖尿病患者さんが非常に多いのですが、以前、地区医師会で糖尿病に関連した臨床研究を実施した際、65歳以下の患者さんが非常に少なく、リクルートに大変苦労した経験があります。かかりつけ医が診ている糖尿病患者さんは、ほとんどが高齢者といっても過言でなく、糖尿病患者の高齢化を実感しています。

土井 高齢者の糖尿病治療において、今、注目すべき点は何でしょうか。
横野 今回のJDS 2014においても高齢者の糖尿病を取り上げた演題が多くみられ、高齢化社会を背景にした関心の高さがうかがえました。特に、低血糖と認知症への関心は高いようで、私が共同座長を務めたシンポジウム「今、そこにある危機-超高齢時代の糖尿病診療-」では、6人のシンポジストのうち3人が低血糖に重点を置いた講演をされたのが印象的でした。
土井 確かに、低血糖は糖尿病治療における重大な課題です。特に高齢者では、認知機能や自律神経機能の低下などにより、本人や医師が気づかない“隠れ低血糖”を生じている可能性が高いと考えられます。そこで、日本臨床内科医会では、“質の高い”糖尿病診療実践のために、そのような糖尿病治療に伴う低血糖の実態を把握することを目的として、アンケート調査を実施しました。
福田 高齢者の糖尿病治療において、低血糖がQOLや予後を悪化させる重大な課題であることは周知のとおりです。ところが、高齢者はしばしば非典型的な症状を呈することが多く、そのため低血糖への対応が遅れて、低血糖の重症化を招く可能性が高くなります。今回のJDS2014の低血糖のセッションでも、高齢者は重篤な低血糖になって運ばれてくるケースが多く、予後も不良であることが指摘されていました。そのような状況を未然に防ぐためには、高齢者の低血糖を早期に的確に判断するべきであるとの理由で、今回の調査が実施されたわけです。
 28項目からなる自覚症状のチェックシートを作成し、過去1ヵ月間の低血糖の有無とどのような症状を経験したかを、患者と主治医それぞれにアンケート調査を行いました(表1)。2012年10月〜2013年12月に外来通院中の65歳以上の2型糖尿病患者を対象に実施され、最終的に1万5892名から回答を得て、その集計結果をJDS2014で発表したのです(図2)。