Home>バックナンバー>2015春号TOP>症例から学ぶ

 インスリン実施が不定であったにもかかわらず、肥満傾向でHbA1cも極度な悪化を認めていなかったことから、インスリン依存性はないものと判断した。したがって、初診時にインスリンは中止し、インスリンレベルを上昇させる薬剤は選択しなかった。いたずらにHbA1c値を下げることを意識せず、当面の生活習慣の是正による血糖改善に期待した。結果的には、診察と指導を通して療養への前向きな姿勢を引き出すことに成功し、ときどきの楽しみを認めながらの療養生活が定着して、血糖コントロールも良好に保たれることとなった。

 7回の指導を行ったが、無理なく体重、血糖コントロールができている。A氏自身が目標体重62Kg(理想体重 58Kg)を目指しているが、ときどき(1~2回/週)菓子を摂取するなど現在は無理なく続けられている様子。A氏は『糖尿病は治らないが、血糖コントロールを良くしておけば、健康な人と変わらない生活ができると聞いている。息子の新聞販売店の手伝いをしながら長生きしたい』との発言も聞かれた。

 A氏はこれまでに教育入院を2回受けており、糖尿病の概略は理解していた。さらに、前職が調理関連であったことから食事療法には自負があった。しかし、実際には食事療法はもとより薬物療法が遵守されず、自分に都合のいい自己管理を行っていた。A氏自身が行おうとしていることを否定せずに、受容しアドバイスすることでA氏との信頼関係が築けた症例と考える。

図 A氏 HbA1c、体重の経過