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ナースの目

“ひろば”で学びあう
糖尿病

大和 しのぶ やまと しのぶ

ぽらんのひろば井上診療所
(大阪府)
看護師・糖尿病療養指導士
(糖尿病療養指導歴 8年)

 「“ぱぴぷぺぽ”の“ぽ”で、“ぽらんのひろば”です。」電話の向こうの相手に診療所の名前をこんなふうに説明する場面がときどきある。院長の井上朱實(アケミ)医師が、宮沢賢治が好きで、その作品から命名した珍しい名前の診療所は、2015年3月で開院2周年になる。
 この“ぽらんのひろば”という「ひろば」で、糖尿病療養の一端を担えることを看護師としてありがたく感じる毎日である。
 “ぽらん”の待合室は、よく目にする町の診療所の風景とは、ひと味もふた味も違う。まず目に入るのは、コーナーにある10畳ほどの畳の部屋。小さな子どもを連れた患者さんも、ここなら遊ばせたり、寝かせたりしながら過ごせる。ここで、腰痛体操を一緒にすれば「その体操なら私も家でやっている。私はな、こんなふうにしてるで…」とほかの患者さんが声をかけてくる。待合室の中央にはフットケアのコーナーがあり、足湯をしたり、爪を切ったり、削ったり。患者さんがケアを受ける姿を見て、ほかの患者さんも自分の足をまじまじと見る。「看護師さん、やっぱり足の先が冷たいのんは、あかんのか?」と尋ねてきたりもする。
 検尿や採血などの検査を済ませ、診察室へ入る前には面談方式で、診察日までの暮らしや体調を看護師が尋ねる。個室ではなく、カーテンで簡単に仕切ってあるだけなので、プライバシーにかかわる話は、小さな声で話す。しかし面談の様子は別の患者さんにも、少しは見えたり聞こえたりもする。プライバシーは守られるべきだが、この“ひろば”では学び合いも大事にし、患者さんが受診に来ている時間、糖尿病療養にどっぷり浸れるように工夫したい。
 看護師問診でその日の検査結果を知り、診察室の前で待つ間に患者さんはもう一度自らの生活を振り返り、「先生、こんにちは。血糖よ~なっとった!やっぱり歩かなあかんな」と診察室へ。診察が終わると患者さんは、なかなか良い顔で出てきて、次の診察日まで、自分の生活へ戻っていく。私たちはその背中に今日もエールを送る。