Home>バックナンバー>2015夏号TOP>施設紹介レポート
 京都大学の皆藤章先生がおっしゃっていますが *1、語りの内容を理解するだけなら「聞く」ということで可能です。「傾聴」するというのは、その語りの源を見すえて、そのように語らしめている患者さんの心の在りように耳を傾けることです。
 患者さんがある日、ぽろっとこぼした言葉が、どこから発せられているのかを考えることで、その心の在りようが見えて動きだすことがある。それまで、何をやってもだめだったのに、そこから血糖コントロールがぐっと良くなることがあります。そこまでじっくり傾聴することが大事です。

Q:実地医家の先生方がどこまでこういった傾聴ができるかがポイントですね。では治療の技術的な面は、どのようにお考えですか。

手納:糖尿病外来では技術的なことも非常に大切です。例えばインスリン投与の必要性や薬の選び方などは、医師が決定、提案しなければなりません。また、患者さんの生活を推察し、改善すべき点を抽出し、どのように伝えるかは、われわれ医療者の技術だと思います。それだけで血糖コントロールがよくなる患者さんもいます。
 ただし、そういった技術的な正論を伝えてもうまくいかない患者さんでは、その語りを傾聴することがとても大切です。
 診断治療といった技術的な面とあわせて、多くの患者さんが入り込んでいる迷路のようなものがどういったところにあるのか、勉強されると糖尿病診療も随分変わってくると思います。

Q:先生の施設では、毎月症例検討会をされているそうですね。どのようにされていますか。

手納:初診の患者さんを対象として、医療スタッフにその場でカルテを読んでもらい、その患者さんについて皆で話し合いを行います。カルテには専門用語も多いので、スタッフのレベルアップにもつながります。症例検討をすると、スタッフ間で情報の共有ができますし、患者さんの日常生活や心情などを推察することで、親近感もわきます。クリニック全体として患者さんを支えていくという姿勢は、必ず患者さんに伝わります。

Q:患者さんの生活習慣を変える行動変容について、何か工夫はありますか。

手納:私は、患者さんの生活習慣を変えさせようとは思っていません。患者さんがずっと健康で生きたいと思うなら、どこに問題点があり、どうすればよいかを聞きます。
 患者さんが何を求めているかで変えられるものも違ってきます。傾聴して患者さん自身で変わっていくことを待っています。

Q:治療を進めるなかで、患者さんの意識が変わり、自ら治していこうという気持ちの変化を待つのですか。

手納:天照大御神の天の岩戸と同じで、自分から変わろうとしなければ、岩戸は動かない。結局、扉は内側からしか開かないのは、何千年も変わらないことで、患者さんの心の扉を押したり引いたりはしますが、自ら心の扉を開くのを待つしかないのです。何もせず漫然と待つのではなく、積極的に待っていると患者さんが少し変わる瞬間があるので、それを大事にします。
 「治す」「教育する」という言い方をすると、主体が医療者側になりますが、患者さんに主体があると考えると、患者さんへの尊厳が生まれます。自分自身で治そうという意欲がないと自然治癒力が上がってきません。われわれ医療者である他者から大事にされているという意識が患者さんにあると、自然治癒力も高まります。これが一番大事なことです。

Q:糖尿病患者さんはバラエティに富んでいますが、実地医家はどういったところに主眼を置いて診察すればよいでしょうか。

手納:実地医家の先生は深追いをせず、各地域の糖尿病対策推進協議会のガイドラインなどに従って、うまく専門医とバトンの受け渡しをしてください。ここまでは、自分で診られるという線引きをきちんとしていただき、その線を越えたら、一度バトンを専門医に渡してもらえば、こちらもできるだけお返ししようと思っています