Home>バックナンバー>2016春号TOP>施設紹介レポート

施設紹介せいの内科クリニック(福島県)

民間療法にはまる
患者さん、いませんか?

清野 弘明 せいの ひろあき

せいの内科クリニック院長
日本糖尿病学会
評議員・専門医・指導医

 近年、健康志向の高まりとともに、民間療法を取り入れる人が増加している。
特に糖尿病は症状がない患者も多く、サプリメントや健康食品の広告に流されがちだ。
そのような患者に対し、医療者はどのように接していけばよいのだろうか?
民間療法にはまる患者の心理を療養指導に生かす工夫と併せて紹介する。

 「血糖管理が大変な方へ…」「気になる糖と体脂肪に…」など、手軽で、かつ多大な効果があるように期待させる広告や健康情報が、いたるところにあふれている。民間療法は食品だけではなく、サプリメントや運動法、健康グッズなど多岐にわたり、その全容を把握することは、もはや不可能だ。
 福島県郡山市の「せいの内科クリニック」(以下せいの内科)院長、清野弘明先生は、「私はある程度肯定的に見ています」と語る。「患者さんがいわゆる民間療法で『調子が良い』『身体が楽になった』と感じるのであれば、まずは『それは、良かったね。じゃあ、その健康食品に副作用がないか、私がチェックしておくね』とお話しします。少しでも病気が良くなれば…と願う患者さんの思いを、最初から否定してはコミュニケーションが成り立ちません」。
 『ダメ』と否定されると、患者は医師に内緒で飲み続けたり、二度と相談しなくなったりしてしまう。医学的に誤った考えでも、一度受け入れていく必要がある。「そう感じられるのももっともですね」と、まずは患者の感情に共感する姿勢を見せることが大切だと、清野先生は言う。

 問題となるのは、健康食品や民間療法などに依存するあまり、医療機関への通院や治療を中断してしまうケースだ。例えば2015年4月には、特定の信仰を持つ両親が、1型糖尿病の7歳の男児にインスリンの注射を受けさせず、死亡させるという痛ましい事件が起きた。
 人は心地の良い言葉や、耳当たりの良い情報に惑わされやすい。患者には、「民間療法を続けてもかまいませんが、糖尿病の治療と通院だけはきちんと続けてください」と伝えることが重要だ。また、その際は具体的な症例をあげると患者も納得しやすい。「以前勤めていた病院で、身長180cmで体重40kg以下と、驚くほど痩せた方が転院してきました。その方は玄米療法に凝って、食事は玄米だけ。野菜も肉も食べないので、自力では動けないほど弱っていました。また、玉ねぎ療法にはまり、薬を中断して、失明してしまった方もいます」。
 また、近年は海外の医薬品やサプリメントなども、インターネットで容易に個人輸入できるようになった。2002年には、中国製の「やせ薬」が原因とみられる劇症肝炎で女性が死亡した例もある。「いわゆる健康食品」や「無承認無許可医薬品」による健康被害事例は後を絶たず、厚生労働省HPでも、多数報告されている。
 「事例を挙げながら、『このような危険もあるんだよ』とお話しします。『病院で使う薬の多くは、世界中のたくさんの研究者や患者さんが、長い時間をかけて試験・検査を行い、副作用を含めて効果を確かめたものです。民間療法には、将来的にどのような健康被害が出るかわからないものもあるからね』とお話しすると、患者さんも納得してくださいます」(清野先生)。
 いわゆる民間療法だからといって一刀両断するのではなく、このようなやり取りをきっかけに、患者に寄り添う姿勢を見せ、治療意欲を引き出していきたい 。